大人になってからでしょうか。絵本をふたたび読むようになったのは。
先日、『松居直のすすめる50の絵本 大人のための絵本入門 教文館』という本に出会いました。松居さんが語る『スイミー』という絵本の魅力がとても印象的でした。
30年も教科書に登場する物語です。皆さんもすでにご存知でしょうが、簡単にスト―リーを紹介させて下さい。
大きなまぐろに仲間達を食べられてしまったちいさな黒い魚・スイミーは、ひとりぽっちで大海原を冒険し、やがて新しい仲間達に出会います。
まぐろを恐れて外へ出たがらない仲間達。スイミーは知恵をしぼり、皆で大きな一匹の魚になって泳ごう、と提案します。
真っ赤な仲間達の中で、たったひとり黒いスイミーは、その容姿を活かして「目」の役目を担います。そうして、まぐろを追い出し、仲間と共に大海原を平和に暮らします。
『スイミー』は、「じぶんとはなにか」を知ること、「自分はどのような役割で他者の役に立てばいいのか」ということを考えることの大切さをメッセージにしている物語だと思われがちですが、それだけではないそうです。
実は作者のレオ=レオニは、「スイミーがひとりぽっちになって大海原を冒険する場面」に全体の八割を費やしています。これまで出会ったことのないユニークな生き物に出会う場面が、印象的なことばと豊かな色彩の絵で何ページにもわたって表現されているのです。
ひとりぽっちで、見て、感じて、考えながら生きていく。それは一見「じぶんとはなにか」を知る前の、非常に心もとない時間です。ですが、この時間こそ、生きる実感に満ちあふれ、人格が成長していく大切な過程だと作者は伝えたいのでは、と松居さんは解説しています。
物語の終盤、ひとりぽっちの長い冒険を終えたスイミーは、生きるための考える力を身につけ、仲間のためにその力をつかい、皆で共に生きていく道を選びます。
このような見方がこの物語にできることに、私はとても新鮮な驚きを感じました。そして、勇気をもらいました。この先しばらくひとりで暮らしていくのだろうなと感じている私は、今まさに冒険のはじまりの直前にいるのだと思います。私は引っ越したらまず本棚を手に入れようと考えているのですが、一番はじめに、『スイミー』を置くことにしようと、そっと決めました。
この度、松居さんの造詣の深い解説によって、改めて絵本という世界の奥深さを感じました。わずか十数ページの子ども向けの本ですが、そこに込められた作者の想いは哲学なのだなぁ、と思います。この本は社会人になる直前の方や、自分とはなにか、その答えてが出ずに不安を感じたり焦りの気持ちがある方に、読んでほしいと思います。
少なくとも私は「あなたがいる今、この場所こそ、あなたにとって大切でかけがえのないものなんだよ」と、この本に励まされました。
絵本って、いいですね。やっぱり、いつか、絵本を書きたいな。私にはそういう気持ちがあったのだと思い出しました。